竜の素穴は、自然にできたほら穴でした。中にはこけがびっしりと生えていてぼんやりと明るく、王子さまにもどこに竜がねむっているのかすぐにわかりました。あの長いしっぽの先がほら穴の曲がり角から少しのぞいていたのです。
王子さまはこけにすべらないように気をつけながら、竜のねいきにあわせてゆっくり上下しているしっぽの方に近づいていきました。曲がり角を曲がると、いきなり竜の大きな顔が現れたので、王子さまはびっくりしていっしゅん息を飲みました。
竜はピンクの体をぐるりと折り曲げて、自分のしっぽの上に顔をのせたかっこうで、気持ちよさそうに眠っていたのです。
(近くで見るとずいぶん大きいなあ)
しばらく竜の眠っているようすをながめてみてから、王子さまはそっと竜のしっぽのさきを持ち上げてみました。
竜は目を覚ましません。
(よしよし、そのままねむっていてね。)
王子さまは、竜のまぶたをちゅういぶかくみつめながら、いつも腰に下げている短剣を取り上げました。そして、竜のしっぽの先に刃をそっとおしあてると、しずかにその皮をむきはじめました。
「王子さま」
いつのまにかすぐ後ろに来ていた村の人たちがちょっと驚きながら声をかけましたが、王子さまはふりむかずにむき続けました。
竜は目を覚ましません。王子さまの皮をむくのがあまりにも上手だったので、竜は自分が皮をむかれていることに気が付かないのでした。そのまま大きなおなかをゆっくり上下させて眠り続けています。
王子さまは皮をむき続けました。
うしろでは村の人達が息をつめてこの様子をみまもっていました。
(かたい皮だなあ。手がすべりそうだ)
王子さまは一生けんめいむきながら、ときどき竜が目を覚まさないかどうかちらりと竜の顔をみやりました。
むいてもむいても皮はなくなりません。王子さまは一心不乱にむき続けました。やがて竜の頭の先までむき終っても、まだ皮は終りになりません。村の人があきれて眠り込んでしまっても、王子さまはむき続けました。やがて夜がふけ、朝が近づいてきて、あたりが少しづつ明るくなり出しすころ、王子さまはうとうととしはじめました。手は、動かしたまま。
「王子さま、王子さま、もうそのくらいでいいですよ」
とつぜん村人の声が聞こえて、王子さまははっとしました。
どうやら半分ねむりこけながら、なお竜の皮をむいていたようです。もうあたりはすっかり明るくなっています。
「あれ?ぼくどうしたんだろう」
見回すと、ほら穴いっぱいにピンク色の皮の山ができていました。
「うわ。これ僕がむいたのかしら。」
そしてふとひざの上を見ると、なんとそこにはほんの猫ぐらいの大きさの、可愛らしいピンク色の竜がのっているのでした。
「これ…あの竜?」
王子さまがびっくりしながらそうつぶやくと、やりを持っていた青年が答えました。
「そうですよ。よくここまでむいてくださいました。これじゃやりをさしたってなんともないはずだ」
大男は重たい皮を手でひろげて、ねんいりに調べました。
「王子さま、こいつは芯まで皮しかないのかも知れませんね。」
竜は小さなすずがころがるような声で鳴ながらこきざみにふるえています。あんまりたくさん皮をむかれて寒いのでしょう。
「ぼくもそう思う。こんなに小さくなっちゃったから、もう退治しなくていいね。ちょうじや大キノコを食べるりょうも、きっと今までよりずっと少ないよ。」
王子さまは嬉しそうにいい、竜の頭をそっとなでて森へ逃がしてやりました。
朝日が完全にのぼると、村の手すきのものはみんなこの山づみの宝物を運び出すのに駆り出されました。王子さまはうきうきとあっちへいったりこっちへいったりしてこの様子を見物しました。なんといってもほんものの竜を見たばかりでなく、それを自分でやっつけたんですから。
はやくお城のみんなにもこの話を聞かせたくて、王子さまは朝ごはんもそこそこに村の人達にさよならをすると、あっというまに仔馬にまたがって、矢のようにお城にかえっていきました。
お城ではおきさきさまと王さまが王子さまの帰りをいまかいまかと待っていました。そして王子さまの姿を見ると心の底からぶじをよろこんだのです。
おやつがかりのおじいさんは、すっかり食べつくされてしまったちょうじのかわりに、王子さまが山もりに持ち帰ってきた極上の竜の皮を使って、りんごの蜂蜜づけをつくりました。王子さまのゆうかんな冒険をお祝いして、お城の食堂いっぱいにです。
王子さまはおいしいりんごの蜂蜜づけをあきるほど食べて、何回も何回もおなかがいっぱいになったそうです。
おわり