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「来たぞ」
 竜は全身がうすいピンク色でうろこはなく、おおきな翼を持っていて、大人20人分ぐらいのからだをしています。
「これが竜か」
 王子さまは
(なんだ思ったより大きくないや。山ほどもあるってことはないな。)
と思って少し安心しました。
 みんなが緊張していきを殺して見つめる中、竜は4本の足をつっぱってゆうがに一回のびをしました。その声は王子さまがお話しにきいて思いえがえていたのとすっかり同じで、われがねのように森中によく響きわたります。竜は翼をおりたたむとゆっくりとほら穴に入っていきました。
 しばらくたって竜が眠ってしまったと思われるころ、鎌をもった大男が小さな合図をして、みんなそっと立ち上がり、ぬきあしさしあしで竜の巣にちかよっていきました。足音を立てないようにそうっとそうっと近寄っていくみんなの後ろ姿を見ていると、王子さまもしげみの後ろで同じようにぬきあしさしあしになってしまうのでした。
 手に手にぶきを持った一行が穴の中に消えてからすぐに、突然森が全部ひっくりかえるかと思うくらいのすごい叫び声が聞こえました。と思うまもなく、穴の中からみんなが大あわてで飛び出してきました。
「逃げろー!」
「竜が怒った!!」
 村のみんなは持っていた鎌やくわをほうりだして、先を争うようにしてこっちに向かってきます。
(あ、こっちにくる。)
 続いて穴の中から体にやりをつきさした竜が、ものすごい声でほえながら出て来ました。そこらへんを走り回って、睡眠のじゃまをしたぶしつけな人間をさがしています。
「あ、王子さま」
 しげみのかげに逃げ込んできたみんなに王子さまはみつかってしまいました。
「ついてきてたんですか?」
「しっ」
 鎌を持っていた大男がすばやく注意するとみんな一斉に口を閉じて茂みにかくれました。竜に見つからないように出来るだけ小さく身を寄せ合います。
 しばらくすると竜は素穴の前にもどって身をくねらせると器用にくちでそのやりをひっこぬいて捨て、傷口を何回かなめました。そして長いしっぽでそのへんの地面を一回たたいてから眠そうに穴の中にもどっていきました。
 やがてシーンとした森に竜のねいきが聞こえてくると、みんなやっと肩のちからを抜きました。
「やれやれ、助かった」
「まったく竜にはおどろくよ」
「あんなに深くやりがささっているのに平気なんだからな」
 王子さまはそっと聞いてみました。
「ねえ、ほんとうに竜は心臓を刺すと死ぬの?」
「ええ。もちろんです。竜じゃなくてもどんな動物だって心臓をさされれば死にますよ。私はたしかに心臓のまうえを一突きにしてやったんです」
 やりを持っていた青年が答えました。青年は続けて、
「あいつは分厚い皮を何重にも着込んでるんですよ。タマネギみたいにね。そういう手ごたえがしました。」
と、じぶんの考えを言いました。
「皮を?」
 王子さまはどきりとしました。
「それはやっかいだな。そんな皮を通して心臓をさすのは一苦労だ」
「どうする?」
 みんな茂みのかげでどうしたら竜をたおせるのかあれこれ話していますが、王子さまはひとりで小さな胸をどきどきさせていました。
(もしかしたらなんとか出来るかもしれない。)
 王子さまはすっくと立ち上がって言いました。
「ぼく、やってみます」
「王子さま?どうなさるおつもりですか?」
 みな、驚いてひきとめます。
「王子さま、あの竜はおっとりしているようですが、その気になれば人間を投げ飛ばすなんてわけないですよ。」
 でも王子さまは茂みの中から出ていき、ゆっくりとぬきあしさしあしで穴の方へ近づいていきました。
 村の人達は茂みのかげでその様子を見つめていましたが、王子さまの姿が穴の中にはいって見えなくなるとあわててその後をおいました。

 竜の素穴は、自然にできたほら穴でした。中にはこけがびっしりと生えていてぼんやりと明るく、王子さまにもどこに竜がねむっているのかすぐにわかりました。あの長いしっぽの先がほら穴の曲がり角から少しのぞいていたのです。
 王子さまはこけにすべらないように気をつけながら、竜のねいきにあわせてゆっくり上下しているしっぽの方に近づいていきました。曲がり角を曲がると、いきなり竜の大きな顔が現れたので、王子さまはびっくりしていっしゅん息を飲みました。
 竜はピンクの体をぐるりと折り曲げて、自分のしっぽの上に顔をのせたかっこうで、気持ちよさそうに眠っていたのです。
(近くで見るとずいぶん大きいなあ)
 しばらく竜の眠っているようすをながめてみてから、王子さまはそっと竜のしっぽのさきを持ち上げてみました。
 竜は目を覚ましません。
(よしよし、そのままねむっていてね。)
 王子さまは、竜のまぶたをちゅういぶかくみつめながら、いつも腰に下げている短剣を取り上げました。そして、竜のしっぽの先に刃をそっとおしあてると、しずかにその皮をむきはじめました。
「王子さま」
 いつのまにかすぐ後ろに来ていた村の人たちがちょっと驚きながら声をかけましたが、王子さまはふりむかずにむき続けました。
 竜は目を覚ましません。王子さまの皮をむくのがあまりにも上手だったので、竜は自分が皮をむかれていることに気が付かないのでした。そのまま大きなおなかをゆっくり上下させて眠り続けています。
 王子さまは皮をむき続けました。
 うしろでは村の人達が息をつめてこの様子をみまもっていました。
(かたい皮だなあ。手がすべりそうだ)
 王子さまは一生けんめいむきながら、ときどき竜が目を覚まさないかどうかちらりと竜の顔をみやりました。
 むいてもむいても皮はなくなりません。王子さまは一心不乱にむき続けました。やがて竜の頭の先までむき終っても、まだ皮は終りになりません。村の人があきれて眠り込んでしまっても、王子さまはむき続けました。やがて夜がふけ、朝が近づいてきて、あたりが少しづつ明るくなり出しすころ、王子さまはうとうととしはじめました。手は、動かしたまま。

「王子さま、王子さま、もうそのくらいでいいですよ」
 とつぜん村人の声が聞こえて、王子さまははっとしました。
 どうやら半分ねむりこけながら、なお竜の皮をむいていたようです。もうあたりはすっかり明るくなっています。
「あれ?ぼくどうしたんだろう」
 見回すと、ほら穴いっぱいにピンク色の皮の山ができていました。
「うわ。これ僕がむいたのかしら。」
 そしてふとひざの上を見ると、なんとそこにはほんの猫ぐらいの大きさの、可愛らしいピンク色の竜がのっているのでした。
「これ…あの竜?」
 王子さまがびっくりしながらそうつぶやくと、やりを持っていた青年が答えました。
「そうですよ。よくここまでむいてくださいました。これじゃやりをさしたってなんともないはずだ」
 大男は重たい皮を手でひろげて、ねんいりに調べました。
「王子さま、こいつは芯まで皮しかないのかも知れませんね。」
 竜は小さなすずがころがるような声で鳴ながらこきざみにふるえています。あんまりたくさん皮をむかれて寒いのでしょう。
「ぼくもそう思う。こんなに小さくなっちゃったから、もう退治しなくていいね。ちょうじや大キノコを食べるりょうも、きっと今までよりずっと少ないよ。」
 王子さまは嬉しそうにいい、竜の頭をそっとなでて森へ逃がしてやりました。

 朝日が完全にのぼると、村の手すきのものはみんなこの山づみの宝物を運び出すのに駆り出されました。王子さまはうきうきとあっちへいったりこっちへいったりしてこの様子を見物しました。なんといってもほんものの竜を見たばかりでなく、それを自分でやっつけたんですから。
 はやくお城のみんなにもこの話を聞かせたくて、王子さまは朝ごはんもそこそこに村の人達にさよならをすると、あっというまに仔馬にまたがって、矢のようにお城にかえっていきました。

 お城ではおきさきさまと王さまが王子さまの帰りをいまかいまかと待っていました。そして王子さまの姿を見ると心の底からぶじをよろこんだのです。
 おやつがかりのおじいさんは、すっかり食べつくされてしまったちょうじのかわりに、王子さまが山もりに持ち帰ってきた極上の竜の皮を使って、りんごの蜂蜜づけをつくりました。王子さまのゆうかんな冒険をお祝いして、お城の食堂いっぱいにです。
 王子さまはおいしいりんごの蜂蜜づけをあきるほど食べて、何回も何回もおなかがいっぱいになったそうです。

   おわり


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